Q.トラスツズマブBS「第一三共」による心障害について教えてください。 (症状、発現機序、発現率、発現時期、対処法、再投与、予防方法)

A.

本剤も先行バイオ医薬品同様、投与後に心障害が発現したとの報告があります。
【症状】
主としてうっ血性心不全や、LVEF(左室駆出率)の低下が認められます。(以下、先行バイオ医薬品とはトラスツズマブ(遺伝子組換え)製剤を指す。)
(1) 心不全
・症候::呼吸困難、起座呼吸、咳嗽等
・症状・異常:S3 ギャロップ*、駆出率(LVEF) 低下、末梢性浮腫等
(2) その他:心原性ショック、肺浮腫、心嚢液貯留、心筋症、心膜炎、不整脈、徐脈等
* 聴診上、Ⅰ音とⅡ音のほかにⅢ音またはⅣ音(心房音)が聞こえることがある。S3はⅢ音のみ加わったもので、拡張早期奔馬調律(ほんばちょうりつ、英語ではギャロップリズム)と呼ばれる。病的Ⅲ音は、心室の拡張期に負荷があることを示唆する所見で、心筋症、心筋梗塞などの重症疾患で奔馬調律が聴取される。

【発現機序】
HER2 は、虚血、心負荷あるいは心毒性を有する薬剤による曝露などの侵襲を受けた際の心筋の修復に、何らかの関与をしていると推測されています1)。本剤の投与下では、侵襲を受けた心筋のHER2 がブロックされるため、心毒性が引き起こされる可能性があります。

【発現率】
手術可能なHER2陽性の乳癌患者さんを対象とした本剤の海外臨床試験(LILAC試験)における、有害事象としての心不全の発現状況は、次のとおりです。
・術前補助化学療法期(海外データ)
 トラスツズマブBS「第一三共」投与群(364例):6例(1.6%)、先行バイオ医薬品投与群:1例(0.3%)
・術後補助化学療法期(海外データ)
 術前・術後補助化学療法期ともトラスツズマブBS「第一三共」投与群(349例):2例(0.6%)
 術前・術後補助化学療法期とも先行バイオ医薬品投与群(171例):1例(0.6%)
 術前には先行バイオ医薬品、術後にはトラスツズマブBS「第一三共」を投与した群(171例):1例(0.6%)
・試験全体(海外データ)
 術前・術後補助化学療法期ともトラスツズマブBS「第一三共」投与群(364例):6例(1.6%)
 術前・術後補助化学療法期とも先行バイオ医薬品投与群(190例):1例(0.5%)
 術前には先行バイオ医薬品、術後にはトラスツズマブBS「第一三共」を投与した群(171例):2例(1.2%)

【発現時期】
発現時期については明らかになっていません。

【対処法、再投与、予防方法】
投与開始前には、患者さんの心機能を確認してください。投与中は、心症状の発現状況・重篤度などに応じて、適宜心機能検査(心エコーなど)を行い、患者さんの状態(LVEF(左室駆出率)の変動を含む)を十分に観察したうえで、休薬、投与再開、あるいは中止を判断してください。
本剤の投与に起因するうっ血性心不全などの心障害に特有な前駆症状は明らかになっていません。通常のうっ血性心不全と同様に、労作時の息切れや動悸、頻脈に注意してください。 検査による心機能のモニタリングや、前駆症状(患者の愁訴等など)の確認を徹底することなどにより、心障害が発現した場合もできるだけ早期に把握し、循環器内科などの専門医へ迅速に紹介するようにしてください。
先行バイオ医薬品において心不全等の重篤な心障害があらわれ、死亡に至った例も報告されています。
以下の因子は心障害発現のリスクファクターと考えられるため、慎重に投与してください。
アントラサイクリン系薬剤の併用又は前治療歴
胸部への放射線治療
心不全症状、又はその既往
左室駆出率(LVEF)の低下、コントロール不能な不整脈、臨床上重大な心臓弁膜症
冠動脈疾患、又はその既往
高血圧、又はその既往

引用文献:
1)Florido R,et al.: J Am Heart Assoc. 2017;6(9):e006915

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